過去のない女たち

かつてTBS系列で放送されていた『金曜ミステリー劇場』では、女性を主人公とするミステリー作品を月に一度のペースで放映していました。その主題歌として選ばれた高樹澪のヒット曲『ダンスはうまく踊れない』は、物憂げなメロディーがドラマの不条理な展開と見事に調和し、ラストシーンでは観客を強烈な感情の高ぶりに陥れることになります。このドラマは第三弾として放送され、主題歌を歌う高樹澪が実際にドラマに出演しました。原作は高橋玄洋の著書『分水嶺』です。

精神神経科の助手を務める良介と、教授の娘である佐智子が婚約を結ぶことに。佐智子は良介に一貫して片思いをしていたため、この婚約は彼女にとって大きな喜びでした。ある日、良介の前に姿を現したのは、良介の行方不明となった元恋人に似た顔を持つ女性で、見た目はそっくりですが、中身は全く異なります。純情でキスすら戸惑うような元恋人とは対照的に、彼女は金銭さえもらえば誰とでも寝るような堕落した女性です。この女性が記憶喪失と判明すると、良介の心は次第に彼女に寄り添っていくようになります。

さらさらと美しいロングヘアをした高樹澪が印象的なこのドラマですが、一方で池上季実子が演じる婚約者の心変わりを恐れる佐智子の哀愁に満ちた演技が注目されます。本来なら美しく完璧なお嬢様であるべき彼女ですが、その不均衡な役割が女性の切なさを色濃く表現し、良介を巡る二つの女性のどちらに寄り添おうかと悩まさせます。

このドラマの決め手となるのは五年前の出来事です。良介の元恋人が遭難した山で何が起こったのか、その真相を知るのは同行していた佐智子だけです。しかし、真相を明らかにすることは決して幸せなことではありません。時には真相を隠しておく方が幸せな場合もあります。このドラマは、記憶喪失の女性が記憶を少しずつ取り戻しながら真相が判明する展開ですが、その過酷な過去に息を切らせさせ、誰も幸せになれないという展開が空しさを残します。